過ぎし日の煙

自己満足のホームワークです

「懐かしいもの」ⅱ

今週のお題「懐かしいもの」

 

【懐かしい】(形)*1

以前の事を思い出して、出来ることならもう一度会いたい(見たい)と思う気持だ。

また、かつての友人・知人などに久しぶりに会ったり、思い出のある土地に再び行ってその当時に戻ったような気持をいだく様子だ。

 

 

 ついに来てしまった。

 初上陸。噂には聞いていたけど、なんというか。初めて来たはずなのに、というより、記憶の限りでは絶対に来ていない場所なのに、どことない既視感。

 どんな場所なのだろう。と幾度も考えたことがある。どれも不正解だった。のだけど、どれも正解に限りなく近い。そんな感じである。

 なんだろう、前世の記憶?的なことなのだろうか。初めてとは思えない、どこか懐かしさを感じますね。という、陳腐な言い回しに尽きる。「初めてなのに、どこか懐かしい」の感情は、この場所から湧き出ているとすら思う。

 そうか、私は今、デジャヴの真骨頂に到達したのかもしれない。

 

 覚悟に反して、なんの感情もなかった。虚無とまではいかないけど、全然感動とかではなかったし、ショックかと言われると、そうでもない。ので、少々味気ないのだが、冷静にあれこれと考えてしまった。どこまで行っても人間、根本的なところはなかなか変わらないのだな。と、懲りずにあれこれと考える私であった。

 あまり下調べをせずにのこのこと来てしまった割には、手続きはスムーズに運んだ。案内がある訳でも、説明がある訳でもなかったが、まるで以前にもやったことがあるかのようなスムーズさだった。ほとんど弾丸で来たのだが、勢いには勢い、である。

 

「あれ、ユキシマ?ユキシマじゃない?」

 久しく呼ばれていなかったあだ名なのに、気づけば反射的に振り返っていた。そこには、懐かしい友の姿があった。

「おうあ…うわあ……」

 ここに来て、ようやく知り合いに遭遇。安心と実感が押し寄せて、声にならない声のような声が出た。

「留学行くって言ってたから、しばらく会えないつもりではいたけど、こんなに会えなくなるとは思ってなかった。ここに来ればまた会えるかもって、思わなかったと言えば嘘になるんだけど、まさか」

 本当に会えるとは。

「そのうち来る、とはわかってたけど、意外じゃなさそうで意外な人が来たな、って感じ」

 彼女は何も変わってなかった。私が最後に見ていた、一番新しい姿の彼女だった。

 ほとんど変わらない身長。向かい合わせに立つと、嫌でも目が合う。

 

「こっちに来て、もう1年半も経っちゃった。」

 軽く案内をされながら、なるほど、道理で馴染んでいるな、と納得したが、もう1年半も経つことにはどうにも納得ができなかった。

「その間にも、たくさん話したいことがあったんだよ」

 あったはずだった。他愛のないことばかりだけど。でも、いざ会うと何も浮かばない。

 みんな寂しがってたよ、という言葉は、飲み込んだ。そんなことを話したかったんじゃない。そして、そんなことは彼女が一番知っているはずだから。

「ユキシマがこんなに早く来るとは思ってなかった」

「私も。なんだかんだしぶとく残るタイプだと思ってたよ」

 ね、と2人してしおらしくなってしまった。

 

 逃げたわけじゃない。それぞれ理由があって、ここに来るしかなかったのだ。だから、ここは単なる逃げ場ではないのだ。絶対に。

「こうやって話すの、懐かしすぎて感情がバグりそう」

「まだ1年半しか経ってないよ」

 と、彼女は笑った。

 まだ1年半しか経っていない。この、1年半という時間をどのように捉えれば良いのだろう。まだ1年半。もう、1年半。感覚はどうであれ、事実として経ったのは1年半という時間だ。それは、こんなにも懐かしさが込み上げるものなのか。

「これからは今まで会ってた人たちとしばらく会えなくなっちゃうんだなあ」

 1年半でこれなのだから、懐かしいどころではないかもしれない。

「早くまた会いたいけど、まだこっちには来てほしくないな」

「そうだね。でもまあ、いずれみんなここに来るよ」

 

 不思議なものだ。どうせここに来るのなら、なぜ一度別れなければならないのだろう。

 あれこれと考えてもキリがない。けれど、時間はたくさんある。あーだこーだ文句を言いながら、気長に待とう、ということになった。

「あ、そういえば、TwitterがXになったよ」

 彼女は目をまんまるにして驚いていた。

「こういうのって、天国にも筒抜けなんじゃないの?」

「ごめん、ちょっとTwitterTwitterじゃなくなった話の整理が追いついてない。Xって何?」

 このツイ廃。いや、元・X(旧Twitter)廃人。

 私もすぐ現世についていけなくなるんだろうな。また次に来た人に時間をかけて教えてもらおう。

 

 そうだ、ずっと会いたかった人たちがこちらにはたくさんいる。

 ここでは、たくさんの再会も待っている。

 そしていつかは私も迎え入れる側として。

 

 私が来てしまったこの場所は、どこか懐かしい。

 ここは、誰もが、辿り着くところ。